とまあ、これだけなら、話は簡単である。その小説が逢坂氏の事務所をモデルにして書かれたものだろう、と考えればいいのだから。 しかし事実はそうではなかった。 逢坂氏が神保町に事務所を持ったのは3年半前のことで、小説はそれよりもはるか昔に書かれているのである。つまりは逢坂氏は自分自身が書いた小説をモデルとして事務所を借り、さらにいうならばその小説の主人公になって生きているかのように見えるのである。 逢坂氏はこの事務所に毎日9時半に来て5時ごろまで、執筆したり資料を調べたりして過ごすという。博報堂を退社してサラリーマン生活には終止符を打ったが、博報堂の代わりに今は自分の事務所に「出勤」しているといっていい。 逢坂氏といえばスペインものが有名で、スペイン関係の蔵書も半端ではないことはよく知られているが、それらは自宅の書庫に置いてあるということで、事務所には現在の仕事に関連するものだけが置かれている。 渋澤氏のときと同様に逢坂氏の事務所もビデオで撮影してきて、それを静止画として切り出した画像を200枚ほどホームページに掲載しておいたので、それらをごらんいただけば分かるとおり、現在の書棚を占めているのは第2次世界大戦関係の資料、それも英語のものがほとんどである。
スペイン関係の本を期待された向きにはちょっとがっかりさせてしまったかもしれないが、戦争ものやスパイ小説が好きな人々にとっては、この書棚は次々にタイトルを追っていって相当長い時間楽しむことができるのでないかと思う。 逢坂氏はウエスタンのファンで、壁には「誇り高き男」などの映画のポスターが貼られ、ガンベルトが吊り下げられている。パソコンの中にまで向かい合わせの拳銃が二挺、大きく貼りつけられている。執筆に疲れたときなどには気晴らしにエアガンを撃って遊んでいるそうだから(このシーンはビデオ動画で見られる)、やはりこの事務所は物語の中の探偵事務所に似ているし、逢坂氏は物語を自分で演じて楽しんでいるようである。 |